Defiled


4/22に観劇しました。観たあと、せっかくだから感じたことを文章として残しておきたいなと思いこれを機にブログをはじめてしまいました。考察でもなんでもないただの感想ですが、ネタバレを含んでいますので観劇前の方はご注意ください!

 

 

 

 


ディファイルド
   -気高く・神聖なものが汚されること

 

 

ハリーはカード目録を守れたのだろうか?カード目録をこれまで通りにするか、それができないなら爆破するか。結果として爆破することになり、カード目録は悪の手に渡ることはなかった。ハリーが望む最良な結末ではなかったけど、最悪な結末でもなかった。
でも、ハリーが最終的に守りたかったものは本当にカード目録だったのか?冒頭の爆弾をひとつずつ丁寧に本棚に置いていくシーンは、まるで小さくて弱い生き物を扱うかのようだった。その際、カード目録の台に足をかけるときはわざわざ靴を脱いでそっと静かに足を乗せていた。ブライアンが水筒をカード目録の上に乗せれば別の机に移動させ、カード目録の引き出しを開ければ丁寧に閉めていく。そんな風にカード目録に敬意が表れていたハリーだったのに、後半でブライアンと口論になったとき土足で大きな音を立ててカード目録の上にのぼっていた。あんなに大事にしていたのに?ヒートアップしてたとしても、それを忘れるぐらいだったのかな?と不思議でした。

 

ハリーは、自分が愛し信じるものには敬意がとても強いのだと思います。カード目録や本に対してはもちろん、半分ユダヤ教徒で半分無神論者だけど教会には行かない、でも母親の命日には教会に出向いて手を合わせる。神にではなく母親に対して。そうやって、自分が信じるものには最大限の敬意と愛情を持っていたのだなと。
メリンダもそうだ。あんなに愛して論文も手伝って婚約までしていたのに振られてしまった。愛して止まないものに捨てられることほど辛いことはない。だからハリーは「社交的な一匹狼」になったのではないかなと思います。そしてカード目録にもそんな思いを抱いていたのかもしれない。カード目録を素晴らしいものだと信じて疑わなかったのに、自分が望んでいない形に変わってしまうなんて。今までの自分は?愛した自分はどうなる?それを信じた自分は間違っていたのか?便利というだけで変わってしまうのか?
ハリーは、カード目録という名の自分の価値観を守りたかったのかもしれない。だからこそこれは、「価値ある使命」だった。

 

ハリーが一瞬でもブライアンの交渉を信じたのかは分からないけれど、握手を交わし抱擁したハリーの顔は何とも言えない、弱い人間の顔でした。再びカード目録の場所へ戻ってきたハリーは、銃で撃たれ声にならないような声で苦しんでいた。
リモコンのスイッチを何度も押すが作動しない爆弾。思わずリモコンを投げつけ、その衝撃でひとつの爆弾が本棚から落ちた。図書館は闇に包まれオレンジの光がハリーを囲んだ。爆弾が落ちる前、ハリーは「何がテクノロジーだ」と口にしていた。本当に必要なとき、テクノロジーは味方になってくれない。こんなときまで、ハリーはそれを痛感することになるんだなと思うと胸が痛みました。机の前で床にだらんと座り一点を見つめているハリーは何を思っていたんだろう。考えても考えてもそれは分からなかったです。
ちなみにこの最後のシーンのハリーの視線の先にいたのですが、(少し距離があり細かい表情までは見えなかった&涙で目がかすんでたので違う表情だったかもしれません…)はじめは奇妙なくらい目を見開いてピクリともしなかったけど、徐々に悲しげな顔になり最後は完全に闇になる直前で目を瞑っていました。その瞬間はとても綺麗でした。

 

観終わってからもずっと色々考えていたけど、なかなかすっきりしなかったからうーーーん……ってなっていて。でも、パンフレットで勝村さんが「答えのない戯曲です」と仰っていて「あ、そうか」と思いました。何回か観劇されている方々が"前回観た時と演技が変わってる"と言っているのをよく見かけました。演出とかではなく、二人芝居だからこそあそこで起こっていることが少しずつ変化していくのかなと思います。

全く関係ない気もするんだけど台詞の全てが線で繋がっている。それこそハリーの人生とブライアンの人生とメリンダの人生と…それぞれの価値観が違うからこそ「神聖なものが汚される」っていう考えが生まれる。価値観が同じならば汚されることなんてない。ハリーには、少しでも価値観が似ている人がそばにいたら良かったのに、と願わずにはいられません。

 

難しい…1回では受け止めきれない!色んな伏線がある気がして、そういう点では何度も観たくなる作品でした。銃声が大きすぎて驚きでドキドキがおさまりませんでしたが…でも、この作品はあのキャパで観るからこそより心にくるものがあるし、観れてよかったなあと改めて思いました。東京公演ほんとうにお疲れ様でした。2人芝居で長丁場ですが最後まで無事に演じられることを祈ってます!